🌱 約束を待ち続けた子ども時代
子供心に、『この願いは叶わない』と薄々気づいてたけど、父が私との約束を守ってくれる日を何年も待ち続けたことがあります。
人は叶わないと知りつつも、それが生きる支えや希望になり得るというお話です。
🪞 父との最初で最後の約束
小さな約束がくれた希望
私が物心ついた頃、父は家に居りませんでした。
今思えば、たまに来るその人を私はいつ父親だと認識したのかが不思議なくらいです。
父は外に女性がいて、家には生活費を入れずに
ずっと私と母を放置していたようです。
私が小学校に入る前、年に数回しか来ない父が私に机を買ってあげると言いました。
私の記憶の中でそれは、父との初めての約束だったと思います。
『机を買って送る』という約束がどんなに嬉しかったか。
今これを書いていたら、満目の笑みを浮かべている幼い私が浮かんで来て、少し切なくなりました。
父の実家の敷地内に建っていた、古くて狭くて汚い小屋が私と母と弟の住まいでした。
部屋の隅に机の置き場所を決めて、そこに机が置かれる日をドキドキしながら待ちました。
でも、小学校の入学式が終わっても机は届きませんでした。
ある日学校の帰り道、国道から一台のトラックが家の方に走って行くのを見かけた私は、
『来た!あのトラックは私の机を運んで来たんだ!絶対そう!そうに決まってる!』
と、トラックを追いかけて走りました。
けど、家の前にトラックはなく、机は配達されていませんでした。
それからと言うもの、トラックが国道から家の方に行くのを見つける度に、来た!ついに来た!今度こそ絶対机だ!!と、トラックに私の机が積まれているのを想像しながら、全速力で走って帰るのが私の密かな楽しみになったのでした。
小さな約束がくれた希望
当時の私の生活環境は最悪で、母と6歳下の弟と私の3人の生活は貧しく、母はパートと内職をしながら私達を育ててくれました。
自分の夫が生活費も入れず他の女の所に行ったきり帰ってこないのですから、母は本当に精神的にも経済的にも苦しかったと思います。
外ではニコニコ愛想の良い母だけど、私に笑顔を向けることはなかったので、私は母から嫌われていると思っていました。
私は、内気で痩せっぽっちで覇気のない子供でした。
小学校低学年の間、友達と呼べるのは同じ町内の同級生のみつこちゃんだけで、
学校であったことを、家に帰って母に話した記憶はほとんどありません。
これは私が大人になって母から聞いたことですが、私は我が儘を言うこともなく、とても大人しくてお利口で、手のかからない子供だったそうです。
でも母のその認識は間違っています。
般若のような顔をして殆ど笑わない母は、私にとって恐ろしい存在でしたから、私は大人しくしているしかなかったのです。
それに、私はお利口で手のかからない子だった筈なのに、眉間に皺を寄せて舌打ちをする母の顔や、何を怒っているのかわからないけど甲高い声でいきなり私を叱りつける母しか記憶にないのは一体どういうことなのかと思います。
きっと母は生活に疲れていたのでしょう。
暖かさの欠片も感じられない日々を私はどう過ごしていたのか…
救いは、祖母(父方)と姉妹のように育った従姉妹でした。
🕊 待っていて良いと言ってくれた人
ある日、思い切って私は祖母にこう言いました。
「お父さんが私に机を送ると約束したんだけど、机がまだ届かない」と。
祖母は、「お父さんが机を買ってくれるってぇ?
ほぉ〜、えがったなぁ。約束したんなら買ってくれるべさ〜。待ってれ〜」と言いました。
そっか、約束したんだもんね!絶対送ってくるよね!私はずっと待っていようと決めました。
約束の机は届かないけど、時々父は家にやって来ました。
でも私は机の事を父に聞けませんでした。
『机は?いつ買ってくれるの?』本当は聞きたかった。だって、来る日も来る日も待っていたのだから、父の顔を見るなり聞いたっておかしくないけど、私はそれが言えない子供でした。
買えないと言われるのが怖かったのか、それともこれは聞いたらダメな事だと察していたのかわからないけど、父の口からも机のことは話されることもなく時が過ぎ、その後、従姉妹のお下がりの机が、私が決めた位置に運び込まれました。
私はあの時「待ってれ〜」と言う祖母の言葉に救われました。
待ってて良いんだと思えた事が嬉しかったのです。
もう届かないとどこかでわかってたけど、待つことが私に生きる希望を与えてくれたからです。
💫 叶わなかった約束がくれた光/孤独な日々の中の支え
習い事どころか学校で必要な物も渋々買い与えて貰うような環境で、毎日何の楽しみもなかった私は、叶いそうにない父との約束に、一縷の望みを託す事で、あの孤独で寂しくて心細かった子供時代の数年間を生きられたのです。
人はもう叶わないとわかっていても、それを生き甲斐にすることが出来ます。
寧ろ叶わなかったからこそ、それが私を導く光になって、私を照らし続けてくれたのだと思います。
しかし、これらの体験は、光でもあり陰でもあります。
私の人生に大きな影響を齎すこととなりました…。
それまたいつか書けたらと思います。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。

  
  
  
  
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